狄判官!

 まさか二十一世紀にもなって、ロバート・ヴァン・グーリック(最近は、蘭語に近い発音で、ローバート・ファン・クーリックと表記されているが…)の本を、新刊として読めるとは思わなかった。
早川ミステリーから新刊が上梓される毎に、このような感慨にひたってしまう。


 最初の出会いは、高校時代の文化祭での古書市である。
魚辺善雄訳による、講談社文庫『中国迷宮殺人事件』を入手した。
ず〜っと後のことになるが、新津美術館の所蔵庫にて、坂口安吾の遺品の中に、この本(タイトルは『迷路の殺人』であったが…)を発見したときは、妙にうれしかった。


 受験で忙しい(勉強もしないのに、妙に気持ちだけは忙しかった…)頃、三省堂より、『中国○○殺人事件』として、続けざまに「狄判官シリーズ」が邦訳された。
だが、値段が高かったので、未購入であった(当時、ハードカバーとはいえ、高校生にとって2,000円の書籍は、購入を躊躇われる)。
それに、人物の表記が“デー判官”では、中国(唐代)の話なのに趣が害われる。
ちなみに、約十年ほど前、古本屋にて三省堂の「狄判官シリーズ」をまとめて入手した。


 まだ、会社勤めをしていた2001年冬、松本の鶴林堂書店にて、早川ミステリーの新刊として、『真珠の首飾り』を見つけたときは、非常に驚いた。
それよりも数年前、中公文庫から『ディー判事 四季屏風殺人事件』が出ていたが、自分にとっては、早川からというのが意外であった。


 その後、コンスタントに早川ミステリーの新刊として、「狄判官シリーズ」は上梓され続けている。
筆者のヴァン・グーリックについて書けば、またキリがなくなるので、ここでは書かない(どこでかくのであろうか?)。


 さて、最新の『柳園の壷』であるが、よくも悪くも、軽く読める一冊である。
最近の重厚なミステリーが好きな人々は、このシリーズや捕物帖をミステリーの範疇に含めるのをヨシとしないだろう。
が、ミステリーや推理小説という表記ゆよりも、探偵小説といった表記に魅かれるモノとしては、こういう作品をもっと発売して欲しいのである。

柳園の壺 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

柳園の壺 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)